関西支店オープニングの正社員募集!
大阪での採用活動が始まった。
募集の見出しには「オープニング!」という文字がひときわ強調されていた。そこには、「ゼロから一緒につくりあげよう!」という木村の想いと、「オープニングスタッフなら応募がたくさん集まるはず」…という採用チームのねらいがあった。
目論見どおり、群馬とくらべれば応募数は大幅に増えた。しかし、ここで採用チームは予想もしなかった課題に直面する。
一次面接は、群馬の本社と大阪をウェブ会議でつないで行う。リアルな対面とは違って、モニター越しではこまかな表情が読み取りづらい。それに輪をかけて、関西の候補者たちの話術が面接官たちを惑わせた。
「候補者がずーっとしゃべり続けるのを止められず、困りました…」
「前職での武勇伝がもっともらしく聞こえるんですが、どこまで信じていいのか…」
今まで彼女たちが出会ってきた社会人、面接してきた候補者たちとは明らかに違う。
けっきょく「判断に迷ったら通す!」という選考基準で、木村の二次面接に託された。
コイツだったら信じられるか?一緒に苦労を楽しめる人間か?
二次面接は新大阪駅、駅前の貸し会議室で、木村と人事部の面接官が候補者と直接会って行われた。
通常は、人事部が採用基準に沿って見極める面接だが、今回は木村がゼロから立ち上げる仲間として信頼を置けるか?の判断が何より優先された。
「能力があることも重要だけど、究極はコイツを信じることができるか?一緒に苦労できる人間なのか?走りながら考えるぞー!という気合と根性も大事なポイントです」
採用したい人物像が明確だった木村は、従来の面接スタイルにとらわれず、限られた時間で人間性を引き出せるよう面接方法も毎回マイナーチェンジしていった。
あるとき、人事部の山田が「二次面接合格」の判断をした候補者に、木村が真っ向から異を唱えた。
「仕事はできそうですが、彼じゃありません!最初の一人目の採用は、関西支店のカルチャーをつくるために超重要なんです。妥協も失敗もしたくありません」
では、どういう人物ならいいのか?という山田の問いに木村は、
「能力も大事ですけど、今の社員たちに刺激を与えるような人物が欲しいんです。うちの社風はベンチャーにしては優しいところもあって、そこがまた魅力ではあるんですが…関西ならではの勢いのよさで風穴を開けたいんです」
たとえばどんなヤツ?と質問は続く。
「『こういうときってどうしたらいいですか?』といちいち指示を仰いでから動くのではなく、とりあえず考えながら動いてみる、というタイプです」
木村が入社した8年前、社員数はまだ十数人の小さな会社だった。何をやるにしても前例も前任者もいない。誰も正解を持っていない中、社員全員で事業をつくりあげてきた自負がある。だからこそ大変なことはたくさんあったが、しんどいとか、つらいと思うことはなかった。
「支店の立ち上げって大変なことがたくさんあるはずです。それに耐えられる気合と根性も大切な要素だと思うんです」
関西支店の立ち上げは、木村にとって会社の創成期と同じくらいの挑戦と覚悟を意味していた。
人を選ぶんじゃない、人から選ばれる会社にならなければ。
たくさんの候補者と会う中、ひとりだけ二次面接を二度繰り返した人物がいた。大阪で事務機器のセールスをしていた平石哲大(24歳)。
野球強豪校で甲子園出場の経験を持つ彼の話を聞いたとき、精神面(気合と根性)はどれほど鍛えられてきたか元高校球児の木村にはすぐに想像がついた。だからこそ、1時間におよぶ面談の中で彼がいかに素直で嘘のない人間か、そこだけに注視していた。
今の仕事の話、学生時代の話、家族の話、野球の話・・・ひとしきり話を終えた時、「この人物は信じるに値する」と確信した。平石と一緒に関西支店をつくりあげていこう!木村の気持ちはすでに決まっていた。
面接後、すぐに最終面接に進んでもらうよう紹介会社に伝えた。このスピード決定には採用意欲と熱意を伝える意図があった。しかし、紹介会社からの反応は意外なものだった。
「平石さんは迷っています。御社のことがまだよくわからないそうです」
・・・大事なことを忘れていた。
どの業界でも人手不足は深刻、優秀な人材は引く手あまたという時代。ところが、「面接」をしているうちに面接官は勘違いをしてしまうことがある。人材の採用とは、「選ぶ」だけではなく、「候補者にも選ばれる」必要があるということ。
すぐさま、異例の二度目の面接。面接というよりも面談だった。それはインターゾーンという会社についてきちんと説明し、平石の志しているものがこの会社でどう実現するのか?お互いに腹を割って話し合うという意図だった。
「関西支店にいい人材を迎え入れるためなら、できることはなんだってやる」。平石との面談に臨む前の夜、西中島の居酒屋で木村は高崎から来た同僚と夜更けまで飲みながら、固く決意した。
新大阪駅前のビルの一室に、平石は再び現れた。
「今度はわれわれが選ばれる番だ」・・・
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